個人事業主である職人さんのインボイス制度における問題点(前編)
インボイス制度の概要
インボイス制度とは、適格請求書を受領、保管しないと仕入税額控除の適用を受けることが出来ません。
インボイス制度の概要については、前回の記事を参考にして頂ければ幸いです。
https://tax-st.com/archives/3948/
今回は、実際にインボイス制度が導入されて1ヶ月が経過しましたが、個人事業主である職人さんがインボイス制度に登録しない場合の問題点について、前編と後編の2部構成で解説したいと思います。
消費税免税事業者がインボイス制度における適格請求書発行事業者に登録をしない場合
ここでは、消費税免税事業者がインボイス制度導入後において、適格請求書を発行することはせずに、これまでと同様の請求書を発行する場合の問題点についてご紹介していきます。
そもそも、消費税免税事業者とは、職人さんの場合、2年前の売上高が1,000万円以下である人を指します。
この免税事業者が適格請求書発行事業者に登録しない場合の問題点としては主に下記のような問題が発生する可能性があります。
①取引先からの仕事が停止される可能性がある。
②新規顧客の獲得が難しくなる可能性がある。
③消費税相当分の値下げを求められる。
これらがインボイス制度導入後において、職人さんがインボイス制度導入後に適格請求書発行事業者に登録しない場合の問題点と考えられますので、下記において解説していきます。
職人さんがインボイス制度によって影響を受ける問題点
①取引先からの仕事が停止される可能性がある。
インボイス制度によって、取引先から仕事が停止される理由としては、免税事業者である職人さんの場合、適格請求書の発行が出来ないことが理由となります。
消費税の納税額が計算される仕組みとして、前回のインボイス制度の記事において、「売上に対して預かった消費税」から「経費に対して支払った消費税」を差し引いた金額が、消費税の納税額となる事をお伝えしました。
この「経費に対して支払った消費税」を差し引く事を「仕入税額控除」と言いますが、インボイス制度導入後においては適格請求書の保管が無いと仕入税額控除の適用を受けることが出来ません。
よって、職人さんが発行する請求書がこれまでと同様の請求書である場合には、取引先側としては、適格請求書を受領出来ない為、仕入税額控除の適用を受けられず、消費税の納税負担が大きくなってしまいます。
その為、同じ仕事をお願いできる免税事業者であるA氏と、適格請求書発行事業者として登録した課税事業者であるB氏のいずれに仕事を依頼するかというと、仕事を依頼する取引先の立場としては、適格請求書を発行できるB氏に仕事を依頼した方が、仕入税額控除の適用を受けられる為、消費税の納税額を少なく抑える事が可能です。
その為、インボイス制度導入後においても適格請求書発行事業者に登録しない場合には、仕事が停止される可能性が高くなります。
②新規顧客の獲得が難しくなる可能性がある。
次の問題点としては、新規顧客の獲得が難しくなる点が考えられます。
こちらの問題点としての理由は、基本的に上述した①の理由と同様になります。
取引先が適格請求書を受領することが出来なければ、仕入税額控除の適用を受けられません。
従って、取引先としては免税事業者よりも、適格請求書発行事業者に登録している課税事業者と優先的に取引を行う事が考えられます。
③消費税相当分の値下げを求められる。
免税事業者である職人さんがこれまで同様に取引を行う場合には、適格請求書発行事業者に登録した方が引き続き取引を継続して実施することが可能なのは上述した通りですが、取引先によっては免税事業者でも取引を続けていく代わりにこれまでの取引金額から、仕入税額控除の適用を受けられない分の消費税相当額の値下げを要求してくる可能性があります。
この値下げについては、過度な値下げである場合には、独占禁止法や下請法など他の法律に抵触してくる可能性もあるので注意が必要ですが、消費税相当額の値下げについて応じる必要も出てきます。
消費税相当額の値下げについては、インボイス制度における仕入税額控除の経過措置として、令和5年10月1日から令和8年9月30日までは2割分、令和8年10月1日から令和11年9月30日までは5割分、令和11年10月1日以降は現在の消費税率10%の全額を値下金額として対応する必要があります。
まとめ
今回はインボイス制度における職人さんが影響を受ける問題点について、解説しました。
これまで免税事業者である職人さんは、今後、免税事業者のままでいる場合には適格請求書を発行することが出来ず、取引先の減少や値下げなどに応じる必要が出てきます。
従って、適格請求書発行事業者へ登録する事を弊所では推奨しております。
何かご不明な点がございましたら、是非、弊所へお問い合わせ頂けますと幸いです。
次回は、インボイス制度における問題点(後編)として、課税事業者へ登録した場合をテーマに解説したいと思います。