個人事業主である職人さんのインボイス制度における問題点(後編)
はじめに
前回は、これまで免税事業者だった職人がインボイス制度における適格請求書発行事業者に登録しなかった場合の問題点について解説しました。
今回は、実際に適格請求書発行事業者に登録した場合、これまでと何が変わるのか解説していきます。
消費税免税事業者がインボイス制度における適格請求書発行事業者に登録した場合
インボイス制度における適格請求書発行事業者へ登録した場合の問題点について解説していきます。
具体的な内容としては下記項目が挙げられます。
①消費税の納税が発生する。
これまで免税事業者だった人が適格請求書発行事業者に登録した場合、適格請求書を発行できるのと同時に、課税事業者に該当する事になります。
その場合、毎年確定申告の時期には所得税だけでなく、消費税の納税義務が発生してきます。
②消費税申告書の作成など事務負担が増加する。
上述したように、インボイス制度における適格請求書発行事業者とは、課税事業者である事が必要になります。
よって、課税事業者である場合には消費税の申告書を作成する必要があります。
消費税の申告書を作成する場合には、期中の会計処理についても、消費税の区分判定が必要になります。
そのため、これらの対応を行う必要があるので、事務処理負担が増加します。
これらの事務負担を回避する為に、税理士などの専門家へ依頼する事が本業に専念出来るのでおすすめです。
③仕入先によって、消費税の納税額が増加する。
適格請求書発行事業者に登録すると、課税事業者となり、消費税の納税や申告書の作成が必要になってきます。
その場合には支払先が適格請求書発行事業者かどうかによって、消費税の納税額が変わってきます。
支払先が適格請求書発行事業者であれば、仕入税額控除の適用を受ける事が可能ですが、そうでない場合には適格請求書を受領する事が出来ず、仕入税額控除の適用を受けられない為、消費税の納税額が増加することになります。
その為、インボイス制度導入後には支払先が適格請求書発行事業者かどうか認識しておく必要があります。
適格請求書発行事業者に登録した場合の対応策
適格請求書発行事業者に登録した場合には、上述した内容の問題点を意識する必要があります。
ただし、これらの問題点に対応する為の方法がいくつか挙げられるので、ここではインボイス制度における対応策をご紹介します。
①インボイス制度における経過措置や特例を活用する。
インボイス制度は、適格請求書の保存を要件として仕入税額控除の適用を受ける事が可能になります。
しかし、インボイス制度導入直後は経過措置や特例を利用する事でインボイス制度に対応した事務負担を一部軽減出来ます。
仕入税額控除の経過措置とは、令和5年10月1日から令和11年9月30日までの期間において適格請求書の保存がなくても仕入税額控除の適用を一部受ける事が出来る制度になります。
割合としては最初の3年間は仕入れに対する消費税額の8割、その後3年間は5割、仕入税額控除の適用が受けられます。
また、インボイス制度における特例として、2割特例が挙げられます。
これは売上に対する消費税額の2割を納付すれば良いというものになります。
この2割特例を利用する事によると、仕入れに対する消費税額は一切加味する必要はないので、2割特例を適用すると決めていれば、経費関係の消費税区分は判定する必要はありません。
②簡易課税制度を活用する。
上述したインボイス制度における2割特例を利用する事によって、経費関係の消費税区分については厳密に判定する必要はなく、売上に対する消費税のみで納付税額を算定出来ます。
しかし、この2割特例は適用期間が令和5年10月1日から令和8年9月30日までの期間に限定されています。
したがって、この期間を過ぎてしまうと経費関係の消費税区分を判定する必要があります。
ただし、売上に対する消費税のみで納税額を計算できる簡易課税制度を利用する事で、売上に対する消費税のみで納税額を確定する事ができます。
インボイス制度導入後に消費税の納税額を計算する手間を少しでも抑えたい人は、簡易課税を検討してみるのも良いかと思います。
③税理士へ依頼する。
これまで解説したようにインボイス制度導入によって、これまで免税事業者だった職人は、消費税申告書の作成など専門知識がないと対応する事が出来ない問題点がいくつか発生します。
これらを自分で対応するのは限界があるので、適格請求書発行事業者に登録した職人の場合には、税理士に依頼する事が本業に専念する為にも必要になります。
まとめ
個人事業主である職人は免税事業者が多い為、インボイス制度による影響は多くの方に関係してくると考えられます。
引き続き免税事業者のままでいるか、適格請求書を発行する為に課税事業者となるか、いずれにしてもインボイス制度によって取引先の減少や事務負担の増加、消費税の納税額が発生するなど、今後の事業活動を行う上で重大な影響となることは間違いありません。
取引先の減少を避ける為には適格請求書発行事業者へ登録する事で対応出来る為、弊所としては登録する事をおすすめします。
インボイス制度について、ご不明な点がございましたら是非お問い合わせくださいますようお願い申し上げます。