相続・贈与の事業承継税制とは?制度の内容を分かりやすく解説
経営者が直面する事業承継の税金問題と、その解決策としての事業承継税制に焦点を当てた本記事では、株式贈与・相続時の税負担と後継者の納税上の課題について詳細に解説します。自社株式の贈与や相続に伴う納税の複雑さと、それによる後継者への影響を検証し、事業承継税制のメリットと活用方法を探ります。
事業承継とは
事業承継は、企業経営や事業運営の責任を現在の経営者や事業主から後継者へ移すプロセスです。この過程は単に経営権の移譲にとどまらず、事業の持続性、経営哲学、企業文化、従業員の継続性など、さまざまな面で重要です。事業承継の重要性は、事業の持続的な成長と安定に大きく関わります。承継が適切に行われることで、事業は変革の時期を乗り越え、長期的に成功することができます。一方で、不適切な承継は、従業員の不安、顧客の信頼喪失、あるいは経営上の混乱を招くリスクがあります。
事業承継は、家族内承継、従業員による承継、外部からの承継など、さまざまな形態を取ります。家族内承継は伝統的な方法であり、事業を家族の次世代に引き継ぐものです。従業員による承継では、従業員や経営幹部が事業を継ぐことになります。外部からの承継は、他の個人や企業が事業を引き継ぐ場合で、新たな視点や資源を事業にもたらすことが期待されます。
事業承継税制は、このような承継プロセスをサポートするための重要なツールです。特に、株式の贈与や相続に関連する税負担の軽減は、事業の継続にとって不可欠です。この税制により、後継者は財務的な負担を減らし、スムーズな事業の移行を実現することができます。
事業承継税制とは
多額の贈与税・相続税がかかると、予想外の支出で経営が圧迫され、円滑に事業承継することが難しくなります。この問題を解決するため、2009年度の税制改正で「事業承継税制」が創設されました。事業承継税制を活用すれば、事業承継のために後継者が取得した自社株式にかかる贈与税・相続税について、納税猶予を受けられます。その後、一定期間にわたって要件を満たすと、猶予された税額は免除されます。
事業承継税制は2018年度の税制改正で10年間の限定措置として要件が緩和され、さらに利用しやすくなりました。また、2019年度の税制改正では、個人向けの事業承継税制も新設されました。本来支払う税額が免除されるという制度であることから、申し込みの手順や要件はとても厳しく決まっています。
参考:
法人版事業承継税制(国税庁)
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/jigyo-shokei/houjin.htm
個人版事業承継税制(国税庁)
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/jigyo-shokei/kojin.htm
事業を引き継ぐのですが、事業承継税制について教えてください。(財務省)
https://www.mof.go.jp/tax_information/qanda007.html
事業承継税制を活用するための条件
事業承継税制には先代経営者、後継者、会社で要件が以下の通り細かく決まっています。
先代経営者が満たすべき条件
・会社の代表者であった
・相続開始または贈与の直前に、現経営者親族などで総議決権数の過半数を保有しており、筆頭株主であった
・20歳以上であること
・役員の経験年数が3年以上
・議決権の10%以上を有している
・贈与時に代表者を退任している(贈与)
※有給役員として残ることは可能。
後継者が満たすべき条件
・相続開始または贈与時、後継者と後継者親族などで総議決権数の過半数を保有する
・後継者が1人の場合、最も多くの議決権数を保有する。後継者が2人または3人の場合、総議決権数の10%以上の議決権数を保有し、後継者と特別の関係がある者の中で最も多くの議決権数を保有する。
・贈与時に(令和4年4月1日以降の贈与は)18歳以上で、贈与の直前で3年以上役員であり、代表者である(贈与)
・相続開始の直前に役員であり、相続開始から5ヵ月後に代表者である(相続)
会社が満たすべき条件
・中小企業者
・常時従業員が1人以上
・上場会社、風俗営業会社ではない
・資産管理会社等に該当しない
・黄金株を発行していない
・前期において売上が発生している。
・特定特別関係会社が中小企業に該当している
事業承継税制開始後の条件
・5年間経過前
➀後継者が会社の代表者で筆頭株主
②後継者が猶予対象株式を継続保有している
③雇用の8割以上を5年間平均で維持する
・5年経過後
後継者が猶予対象株式を継続保有している
※特例措置では、雇用を維持できない場合、認定支援機関の指導や助言を受けた上で、その意見が記載されている報告書を都道府県庁に提出すれば、納税猶予は継続されます。上記の条件の他にも、取り消し事由に該当すると、猶予された税額と利子を納付しなければなりませんので注意が必要です。
参考:
中小企業庁:法人版事業承継税制(特例措置)の前提となる認定
https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/shoukei_enkatsu_zouyo_souzoku.htm
まとめ
事業承継税制は要件が多く、手順も複雑です。また、高額の相続税が免除になるといった制度であることから、制度を利用する際には慎重な対応が求められます。鈴木健志税理士事務所では事業承継に関するアドバイスやサポートも行っております。お気軽にご相談ください。
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