役員借入金を他の親族へ生前贈与して相続財産を圧縮する方法

◆はじめに
同族会社を経営していると、資金繰りの都合などで経営者個人が会社にお金を貸し付けるケースが多々あります。
これは会社の決算書上、「役員借入金」(個人側からは法人への貸付金)として計上されます。
実はこの役員借入金は社長に相続が発生した際、額面通りの評価額で「相続財産」に含まれてしまいます。
会社に返済能力が乏しい場合でも、原則として100%の価値で課税されてしまうため、何もしないと残された遺族に重い相続税がのしかかる原因になります。
今回は、社長aの役員借入金を、後継者などの他の親族bに移転させることで、aの相続財産から法人への貸付金をなくし、相続税を節税する方法について詳しく解説します。

◆役員借入金を移転させる債権贈与の仕組み
社長aが持つ「会社に対する貸付金(役員借入金)」を、別の親族b(例えば後継者である子など)に移す最もオーソドックスな方法が「債権の生前贈与」です。
これは、社長aが「会社からお金を返してもらう権利(債権)」をbに無償でプレゼントする契約を結ぶことで成り立ちます。
これにより、会社の決算書上は「a役員借入金」から「b役員借入金」へと名義が切り替わることになります。
結果として、社長aの財産からは貸付金が完全に消滅するため、将来aに相続が発生した際の相続税の課税対象からこの貸付金を外すことが可能になります。

◆実務上の注意点と債権贈与契約書の重要性
この対策を実行するにあたり、最も重要なのが「客観的な証拠を残すこと」です。
単に口頭で約束したり、決算書上の名前を書き換えたりしただけでは、税務調査が入った際に「名義を一時的に変えただけの仮装隠蔽(あるいはaの財産のまま)」とみなされ、否認されるリスクが非常に高くなります。
そのため、実務では必ず以下の対応を行います。
・債権贈与契約書の作成
贈与者aと受贈者bの間で、「〇年〇月〇日、〇〇円の貸付債権を贈与する」という旨を明記した契約書を作成し、お互いに署名・捺印します。
・会社への通知、または会社の承諾
民法上、債権が移転したことを会社(債務者)に認めさせる、あるいは第三者に対抗するためには、aから会社への「通知」か、会社からの「承諾」が必要です。
実務では、会社が「承諾書」を発行するか、契約書に会社も当事者として連名で署名捺印する形を取ります。
・確定日付の取得
あとから契約書をバックデートで作ったのではないかと疑われないよう、公証役場で「確定日付」を取得しておくと、税務上の確実性が飛躍的に高まります。

◆贈与税への配慮と暦年課税の活用
役員借入金を移動させるということは、受贈者bに「贈与税」がかかる可能性があるということです。
役員借入金は、相続税の評価では原則「額面通り」ですが、会社の経営状態が著しく悪く、将来も絶対に返済できないような状況である場合、贈与時点の「時価」が額面より低く評価されるケースもあります。
しかし、税務当局との見解の相違を防ぐためにも、基本的には額面ベースで贈与税を計算するのが安全です。
そのため、一度に多額の借入金を贈与すると高い贈与税が課されてしまいます。
対策としては、「年間110万円の基礎控除(暦年贈与)」の範囲内で、数年に分けて少しずつaからbへ債権を贈与していく方法が現実的です。
例えば、毎年110万円ずつの債権贈与契約書を作成し、少しずつaの借入金を減らしてbへ移していきます。

◆まとめ
法人の「役員借入金」は、放置すると将来の相続人にとって多大な税負担になりかねません。
社長aから親族bへ債権贈与契約書を用いて計画的に役員借入金を移転させる方法は、aの相続財産を確実に減少させる有効な手段です。
ただし、契約書の不備や、毎年同じ日に同じ金額を贈与し続けることによる「定期贈与」とみなされるリスクなど、税務上の留意点は多く存在します。
実行の際は、会社の財務状況や将来の経営権のバランスも考慮する必要があるため、必ず事前に税理士などの専門家へご相談の上、進めていただくことをお勧めいたします。
何かご不明な点がございましたら是非弊所へご相談下さい。

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